アートメイクの安全性とリスクおよび対策

 アートメイクは、人の皮膚に針で色素を入れる行為であり、日本では医師免許を有しない者が業として行えば医師法違反になります[1]。 国民生活センターによれば2006年からの5年間で危害報告が121件寄せられており[2]、その95%はアートメイクの施術を提供しているサロンやエステサロン等で医師免許を有しない者が行った施術でした。無資格者の逮捕や書類送検の例もあります。

 

 その一方で、アートメイクを施術する医療機関の数は、2014年現在、非常に少ないです。施術できる医療機関が少ないまま、取締りや摘発のみが強化されれば、アートメイク希望者はよりリスクの高い施術者や海外での施術へと流れるでしょう。アートメイクの需要が全く無くなることは考えにくく、また化学療法による眉の脱毛への対応などといった病気に取り組む患者の精神衛生面での効用もあります。

 

 私たちは、医師によるアートメイク施術を普及させるためには、医学的観点からアートメイクの安全性とリスクおよび対策について、一度しっかりと検討しておくことが必要と考えました。以下はそのまとめです。

1、国民生活センターに寄せられた主な相談事例から

国民生活センターに寄せられた主な相談事例(平成23年10月27日報道発表資料)[1]には、具体的な6事例が記されています。これらについて、もしこれらの事例が医療機関で施術されていたらどのように被害を防止し得たかについてまとめてみました(表1)。

 

表1 国民生活センターへの主な相談事例(左列、平成23年10月27日 報道発表資料より)と医療機関であれば可能と考えられた対応(右列)

【事例 1】施術部位が化膿した 

友人の口コミで知った店で、眉のアートメイクを受けた。3回で 1コース。1回目の施術は問題なかったが、2 回目の施術後化膿した。皮膚科の診察を受けて、針や色素に問題がある可能性があるといわれた。いわゆる刺青と同じなので本来は医療行為だとは知っているが、医院で行うと倍の費用がかかる。顔が腫れたので仕事もキャンセルした。
消毒など感染予防

【事例 2】角膜に傷がついた 

フリーペーパーの広告に載っていたエステサロンでアイラインのアートメイクをした。施術中に痛みがあり、痛いと言ったにもかかわらずそのまま施術された。終了後、軟膏のようなものを塗られ、視野が曇っていると言ったら軟膏のせいだと言われ帰宅した。しかし、痛みと涙が止まらないので救急で眼科に行ったところ、角膜が傷ついていることがわかった。
眼科への紹介

【事例 3】痛みと腫れが続いている 

1週間ほど前アートメイクをしているサロンで眉のアートメイクを受けた。業者の説明では多少は腫れるがすぐに治まるとのことであったので安心して受けた。しかし施術中から痛く、今も眉の回りが赤く腫れて痛みがある。恥ずかしくて外出もできない。
適切な麻酔、術後の抗生剤やステロイド剤などによる抗炎症ケア

【事例 4】かさぶたが治らない上ラインがおかしい 

アートメイクをしているサロンで眉とアイラインのアートメイクをした。以前にも眉のアートメイクをしたことがあるが、その時は 1週間ほどでかさぶたが取れきれいになったのに、今回はかさぶたのままできれいにならない。しかも、右眼のアイラインは色が濃すぎて互い違いになっている。苦情を言うと除去液を使って修正すると言われたが、業者の技術が信用できない。
Qスイッチレーザーによる過剰な色素の消去

【事例 5】誤って眼の下に色が入ってしまった 

エステサロンで上まぶたのアイラインのアートメイクをしてもらったが、痛かったので思わず眼をギュッと閉じてしまった。まぶたが動いた拍子に針が下まぶたに刺さり、眼のふちから 5 ミリくらいのところに色が入ってしまった。医師を紹介されたが、色素を抜く際にまつ毛が抜ける可能性があり色素が抜けきれるかも保証できないという。
Qスイッチレーザーによる過剰な色素の消去

【事例 6】友人の自宅で施術したが眉の形が変になってしまった 

友人宅で眉のアートメイクをした。施術したのは友人の娘で、麻酔薬を眉に塗り手彫りで入れた。施術後痛みが出て眉が腫れた。皮膚科を受診したところ、消毒がきちんとできていなかったからだと言われ、アートメイクは医師でないものがやってはいけないことだとも言われた。 薬で腫れは治まったが、眉の形が左右でずれ形も変になった。
術後の抗生剤やステロイド剤などによる抗炎症ケア、Qスイッチレーザーによる過剰な色素の消去

 国民生活センターに寄せられた相談事例は、この施術が医療行為であることを再認識させるものでした。ほとんどの事例は、医療機関で施されていたならば適切な対処が可能であっただろうと考えられたからです。

 角膜表面などを傷付けたことが疑われる場合には、速やかに眼科を受診させ、異物が入っていないか確認し、二次感染を警戒しながら経過観察すべきです。アートメイク施術部位の術後の炎症の程度によっては抗生剤の外用または内服、ステロイドの外用などを活用します。過剰に色素が入ってしまった場合には、レーザーにより除去します。波長の深達度の観点から1064nmのQスイッチYAGレーザーがもっとも適しているでしょう。
図1は、非医師による眉のアートメイクを当クリニックにて整容的観点から眉頭と眉山を削った症例ですが、このような調整も医師であれば可能です。

 

図1 眉のアートメイクのQスイッチYAGレーザーによる修正例。眉頭側の下1/3と眉山を消去することで、自然な感じに仕上がりました。

 

 

2、MRI検査時の問題

 アートメイクのデメリットとして、MRI検査時の安全性の問題があります。これは、色素中に含まれる金属導電体(主にFe)が、磁場強度の変化によって電磁誘導を起こし、電流が生じる結果発熱し熱傷を生じるかもしれないという危惧です。そのため、アートメイクをしている患者にはMRI検査を行わないとする方針の施設もあるようです。

 MRI検査におけるアートメイクの問題はもう一つあります。それは画像上のアーチファクトです。これについては多くの医学論文があり、既に1986年にシーメンス社が、当時の1.0テスラのMRI検査を受けた22才の女性が、アイラインにアートメイクを入れていたことにより眼球付近にアーチファクトを生じた例があることを、ユーザーに向けて情報提供しています[3]。なお、この女性は1時間のMRI検査を受けた後、2時間後から痛みを伴わない浮腫を上瞼に感じ、4時間後がピークで48時間で退いたとのことです。シーメンス社はこのケースの報告を受けて、アイラインにアートメイクを入れている患者については、その色素に鉄が含有されているかもしれない場合には検査対象から除外することを勧告しました。アートメイクではありませんが、アイライナーなどの化粧品を肌につけた状態でのMRI撮影時にも、アーチファクトが生じうることは、1986年にLund[4]が、1987年にSaccoら[5]が報告しています。

 

 そこで、熱傷やアーチファクトといったMRI検査時の問題点に関し、実際にあさこ先生がアートメイク用の色素で化粧したうえでMRI撮影に臨んで検証してみました。使用した色素は4種類で、左右の眉とアイラインに塗り分けました。すなわち、 右眉:Honey Nubrown (Kolorsource社、「MRA safe」と記載あり)、左眉:Coco Nubrown (Kolorsource社)、右アイライン: Black Ice(Kolorsource社、「MRA safe」と記載あり)、左アイライン:Midnight Black (BioTouch社)です。MRI撮影はPhilips社の装置を用い3テスラの磁界強度で、T1(SE)、T2(SE)、MRA(GE)モードでそれぞれ撮影しました。

 

MRI検査の実験をするあさこ先生

MRI検査の実験をするあさこ先生

あさこ先生による自験結果においては、1)灼熱感などの自覚症状は全く無かった。2)アーチファクトは、左アイライン側に、MRA GEモードにおいてのみ観察された(図2の赤矢印の先、黒く抜けているところ)。T1,T2モードでは観察されなかった。また、「MRI safe」と記載された色素で化粧した右側および左眉では観察されなかった。 でした。

 

図2 自験例のMRI画像。左アイラインの色素によると考えられるアーチファクトがMRA(GE)画像で認められました(赤矢印)。

自験例のMRI画像

 文献的に検索してみると、アートメイクあるいはタトゥーをした人がMRI検査を受けて熱傷を生じたという報告は、非常に少ないながらも存在します。調べ得た限りでは、1997年のカナダのKreidsteinという医師によるケースレポートが最初の強い症状を記載していました[3]。それは、腹部に赤いタトゥーを入れた女性がMRI検査を受けたところ、焼けるような痛み(burning pain)を訴え、検査が中断されたというものでした。

痛みはすぐに軽快し15分後には消失しました。後日、そのタトゥーは形成外科医によって切除されたのですが、その切除片を糸でぶらさげて磁石に近付けると、なんと引き寄せられたそうです。よほど鉄分の濃い色素が使われていたのでしょう。

 2000年にはWagleらが、肩の渦巻き状の黒いタトゥーをした23才の男性が1.5テスラのMRI検査によってⅡ度の熱傷を起こした例を報告しました[6]。電磁誘導というのは導電体の中を円心状に電流が流れるので、形状によってはこのようなやけどを起こすことがあるようです。しかしWagle自身、論文中で「14年間のMRI検査の経験において、ほかに熱傷を生じた例はない」と記しているように、非常に稀なケースです。 2006年にFranielらは「Feを含有しない色素」によるアイラインのアートメイクをした25才の女性が、1.5テスラのMRIによってⅠ度の熱傷を生じた例を報告しました[7]。患者が灼熱感を訴えたため検査は中断され、両上まぶたに浮腫と発赤を認めました。3日後には消失したためⅠ度熱傷と診断されました。鉄以外の金属が含有されていた可能性が考察されています。

 以上から言えることは、アートメイクによる熱傷は、非常に稀ながらも起こり得るということです。しかもその可能性は「MRI safe」の表記のある色素であっても完全には否定出来ません。しかしながら、これまでに報告のあった熱傷の程度は、アイラインにおいてⅠ度であり、灼熱感などの自覚症状に留意しながら行えば、MRI検査が禁忌とされるほどのものとまではいえません。むしろ、アートメイクをしていることを理由にMRI検査が行われなければ、それによって画像診断上病変が見落とされる可能性が生じ、患者の不利益の方が大きいでしょう。

各施設の放射線部の理解を求めていくべきと考えられます。具体的には、1)自覚症状を伴いそれが警告となるので検査時の鎮静は控える、2)心配な場合はアートメイクの部をアイスパックで冷やしながら検査する、2)ループ状の形のタトゥーにおいて静電誘導が起きやすいので、開眼した際にアーチ状となることを避けるために検査中は閉眼させる、といった対策が有用でしょう。

 

付記 アートメイク用色素の鉄含有率について

あさこ先生が実際に検査した4種類の色素の成分に関し、Fe含有量を原子吸光分析(アジレント社製ICP-MS 7500cS)にて測定してみました(表2)。

表2 4種類の色素のFe含有率

Honey Nubrown (Kolorsource社、「MRA safe」と記載あり

7.2%
Coco Nubrown (Kolorsource社) 7.3%
Black Ice(Kolorsource社、「MRA safe」と記載あり) 0.1%
Midnight Black (BioTouch社) 18%

 MRIでアーチファクトを認めた色素においては20%という高濃度の含有率でした。Kolorsource社に対しては具体的な成分組成を教えて欲しいと問い合わせてみましたが、「FDA(アメリカ医薬食品局)に認可された色素を使用している」という以上の情報開示は得られませんでした。

色素のFe含有率の結果は、これが高いほどアーチファクトが生じ易いという予想に合致するものでした。しかし、実際のところ、

 このような眼球付近、あるいは眉であれば前頭部の浅いところのアーチファクトによって、診断上不都合が生じる病態は考えにくいです。また、Fe含有率が低ければ安全、というものでももちろんありません。Feに替わる何らかの有機系色素が用いられているということであり、Feがアレルギーを起こしにくく、これまで長年にわたって使用されてきたという経験的安全性を鑑みると「MRI safe」の色素を単純に推奨すべきとも言い切れません。

 

3、アレルギーについて

 国民生活センターへの相談事例には、アレルギーが疑われたケースは無かったようです。黒色のインクは赤など他の色に比べるとはるかにアレルギーを生じにくいです[8]。しかし文献的には、眉やアイラインの黒色インクで、アレルギー性接触皮膚炎[8]や肉芽反応(granulomatous reaction)[9][10]などといったアレルギー反応を来した報告は存在します。もしもアレルギーを疑った場合にはどう対処すれば良いでしょうか?通常副腎皮質ステロイドの外用・局所注射・内服が試みられますが、奏効せず遷延することもあります[14]。次の手段としては、眉やアイラインなど黒~茶系の色素の場合、QスイッチYAGレーザー(1064nm波長)で分解を試みるという方法が考えられます。眼周りのアートメイクではありませんが、赤色のタトゥーに生じた苔癬様反応(lichenoid reaction)の患者7例をQスイッチYAGレーザー(532nm波長)で治療し、全例で除去に成功したという報告があります[11]。またIbrahimiはフラクショナルレーザーによって皮膚に無数の小孔をあけてアブレーションする方法で、過剰な色素を外側に押し出すという発想で、アレルギーを生じた茶色および赤色のタトゥーの治療に成功しました[12]。一方、Vegaefiは、アイラインに生じた肉芽反応を外科的に切除して治療に成功した4症例を報告しています[10]。切除が部位的に可能であり、患者が手術に同意するならば、外科的治療はもっとも確実な方法かもしれません。

 

 このように、アートメイクによるアレルギーは、稀ではあるが、発症してしまうと治療に難渋することがあります。回避策としては、1)化粧品アレルギーなどの既往を聞き、疑わしい場合にはインクでパッチテストを行う、2)施術は通常数週間間隔で複数回に分けて行われるので、前回の施術部位に炎症が残っている場合には施術を見合わせ、注意深く経過観察を行う、3)信用できるメーカーから直接に定評のある色素を購入する、4)施術者間で横の連絡を取り合い情報を共有する、が考えられます。

 

 1)に関して、Straetemansは、アレルギーの既往の無かった患者は、既往のある患者よりも治癒までの期間が短いことを報告しており[14]、その意味でも問診は重要と言えます。パッチテストについては、肉芽反応や苔癬様反応の場合は陰性であるので、パッチテストで陰性であるからといって安全とは言えないことを記憶すべきでしょう。3)で「定評のある」というのは、発売後長く多くの人に施術されているという意味で、安全性が担保されているからであり、「メーカーから直接に」というのは、偽造品が流通していることがあるためです。メーカーのホームページには、偽造品の存在が強く注意喚起されていることがあります[13]。平成13年の厚労省通達によって、警察の取り締まりが強化されたことを受け、日本向け通販を行っている海外の色素のメーカー(Kolorsource社、BioTouch社、Softap社など、米国が多い)は現在、代理店を通じてあるいは直接に、医師免許など資格の確認を要求するようになってきています。

 

 すなわち、正規のルートで色素を購入できるのは日本では医師のみであり、その意味でも非医師による施術はリスクが高いです。偽造品にはどんな色素成分が使われているか判りません。4)の「情報の共有」は、アレルギー性接触性皮膚炎が頻発する場合には、ある特定の製品によることが考えられるからです。実際、米国ではあるメーカーの特定のインクでアレルギー性接触性皮膚炎が頻発したことがあり、その製品は2004年にリコールされています[14][15]。

 

 アートメイクは医療行為であり無資格者が施術すべきではありません。その一方で、アートメイクにはデザイン性が求められます。ただ眉の形が入ればいいというものではもちろん無く、医療行為でありながら医学的知識以外の素養が施術者には必要であり、これが医師が施術に二の足を踏むもう一つの理由でしょう。

 現実的には、メイクアップアーティストなど、メイクの専門家との協働が望ましいです。医師が行うべきとされているのは、まさにこの「安全性とリスクおよび対策」の観点からであり、そのことを私たちアートメイクを施術する医師は肝に銘なければなりません。

 

文献
[1] 医師免許を有しない者による脱毛行為等の取扱いについて, 医政医発第15号 平成13年11月8日, http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000025aq3-att/2r98520000025axn.pdf

 

[2] 独立行政法人国民生活センター:アートメイクの危害,平成23年10月27日報道発表資料, http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20111027_1.pdf

 

[3] Kreidstein ML, Giguere D, Freiberg A : MRI interaction with tattoo pigments: case report, pathophysiology, and management, Plast Reconstr Surg, 99 : 1717-1720, 1997.

 

[4] Lund G, Wirtschafter JD, Nelson JD et al. : Tattooing of eyelids: magnetic resonance imaging artifacts, Ophthalmic Surg, 17 : 550-553, 1986.

 

[5] Sacco DC, Steiger DA, Bellon EM et al. : Artifacts caused by cosmetics in MR imaging of the head, AJR Am J Roentgenol, 148 : 1001-1004, 1987.

 

[6] Wagle WA, Smith M : Tattoo-induced skin burn during MR imaging, AJR Am J Roentgenol, 174 : 1795, 2000.

 

[7] Franiel T, Schmidt S, Klingebiel R : First-degree burns on MRI due to nonferrous tattoos, AJR Am J Roentgenol, 187 : W556, 2006.

 

[8] Kaur RR1, Kirby W, Maibach H : Cutaneous allergic reactions to tattoo ink, J Cosmet Dermatol, 8 : 295-300, 2009.

 

[9] Ro YS, Lee CW : Granulomatous tissue reaction following cosmetic eyebrow tattooing, J Dermatol, 18 : 352-355, 1991.

 

[10] Vagefi MR1, Dragan L, Hughes SM et al.: Adverse reactions to permanent eyeliner tattoo, Ophthal Plast Reconstr Surg, 22 : 48-51, 2006.

 

[11] Antony FC, Harland CC : Red ink tattoo reactions: successful treatment with the Q-switched 532 nm Nd:YAG laser, Br J Dermatol, 149:94-98,2003.

 

[12] Ibrahimi OA1, Syed Z, Sakamoto FH et al.: Treatment of tattoo allergy with ablative fractional resurfacing: a novel paradigm for tattoo removal, J Am Acad Dermatol, 64: 1111-1114,2011.

 

[13] Biotouch社ホームページ:
http://www.biotouch.com/Accessories_4/NOTIFICATION

 

[14] Straetemans M, Katz LM, Belson M : Adverse reactions after permanent-makeup procedures, N Engl J Med, 356 : 2753, 2007.

 

[15] FDAのホームページ
http://www.fda.gov/safety/recalls/enforcementreports/2005/ucm120342.htm

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